五条 紀夫『殺人事件に巻き込まれて走っている場合ではないメロス』(角川文庫)
異常なタイトルと独特な表紙に惹かれてつい買ってしまった。
結果からいうと、最高の面白コメディ本だった。
タイトルに偽りなし。無茶苦茶な設定。過剰なユーモア。でもそこがいい。
ただ万人におすすめできる本ではない。
アニメで言ったらポプテピピック。ゲームで言ったらぬきたし。芸人で言ったらトム・ブラウン。
換言すると、この小説は極端に人を選ぶ。
ただ僕は好きだったので、僕なりに読んで面白かったところをなんとか伝えようと思う。
イマジンティウス
「イマジンティウスってなんだよ」と思ったあなたは正しい。
イマジンティウスとは、メロスが自身の代わりに人質となったセリヌンティウスのことを想うあまり顕現させた、メロスだけが視えるセリヌンティウスの姿をしたイマジナリーフレンドらしい。
「なにいってんだこいつ」と思ったあなたは正しい。
ただ、こうとしか説明できない。だってそういう設定なんだもん。しょうがないだろう。
本作はメロスとイマジンティウスの2人(実質1人?)で数々の事件を解決していくという建付けになっている。実際、原作の『走れメロス』だとメロスの独白のようになる部分が、イマジンティウスがいてくれるおかげで掛け合いが生まれるし、物語もスムーズに進むので、本作の潤滑油としてなくてはならない存在だ。読んでいくうちにどんどん違和感無く溶け込んでくる。
命名規則がカス
本書で登場する人物たちの名前を一部みてみよう。
イモートア。ムコス。キラレテシス。ミタンデス。ダボクシス。
……勘の良い読者は、彼女らがどのような人物たちかすでにわかったことだろう。
そう、名が体を表しすぎている。
メロスの妹、その妹の婿。何者かに斬られた者。それを見た者。打撲死した者。
命名がカスすぎて最高。読み疲れないちょうどいい力の抜き方。体温と同じくらいのぬるま湯。
(あと正直キャラ名覚えやすくて助かる)
元ネタ『走れメロス』準拠
全編通して無茶苦茶なことをしまくっているのに、プロット「だけ」はしっかり『走れメロス』に準拠していて、その絶妙なバランス感覚が心地良い。
あたかも「これは『走れメロス』の新解釈であって、単に無茶苦茶してるわけじゃないんですよ~」みたいな雰囲気を醸し出していてニクい。絶対騙されるな。
メタ展開(作者がめちゃくちゃ話しかけてくる)
ヲタクが好きな3Mといえば、萌え・眼鏡っ娘・メタ展開。
残念ながら本作には萌え要素も眼鏡っ娘も登場しないが、メタ展開はしっかりと登場する。
普段だったらびっくり展開についてはネタバレに配慮して踏み込まないか、あるいは注意書きをするのだが、本書はもはやネタバレとかそういう類の本ではない(と勝手に思っている)のでそのまま紹介する。
作者がめちゃくちゃこっちに話しかけてくる。
しかも、ものすごくメタいことを言ってくる。
具体的には、
「さあ、突然であるが、賢明なる読者諸氏に、ここで宣言しよう。この物語の黒幕は〇〇である。疑いなさるな、捻くれたメタトリックで騙す気はあらず、虚偽無く、正真正銘、〇〇が犯人なのである。(中略)すなわち、これは、ハウダニットミステリー、加えて、読者への挑戦である――。」
伏せ字にしているが、ここには本当に黒幕が名指しされている。
こんな無茶苦茶な世界観でハウダニットミステリーを仕掛けてくるな。
最高の面白コメディ本! ……ほんとうに?
本作は、間違いなく質の高い「最高の面白コメディ本」である。
スピード感があってめちゃくちゃ読みやすくて、内容は突飛で馬鹿げていて最高で、イマジンティウスとの掛け合いも面白くて、命名規則はカスで、『走れメロス』と同じ進行が心地よくて、最後にハウダニットがあって、実際これほぼ全編コメディって言ってもよくて……
……それでいて、勘の良い読者でも、気づけないことがある。
本作は、間違いなく質の高い「最高の面白ミステリ本」でもある。
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五条 紀夫『殺人事件に巻き込まれて走っている場合ではないメロス』(角川文庫)



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